1 復讐
自殺することは、意思を表白すること。
生きている人間らにざまをみろ、ということ。
この世のあらゆるものに対してノーをいうこと。
生き続ける者らをコケにすること。
人のいい仮面をはがしておのれの本当の姿をつきつけること。
つまるところ、許すことの出来ぬ人間らに呪いを吹きかけること。
2 構図
彼は今日も一日の仕事をこなす。
当たり前に、いつものようにこなす。
誰も彼の異変に気付かない。
彼がまるでいつものようにそこに存在する,と思っている。
カオに「人あたりのいい笑顔」を浮かべているので皆、安心している。
誰もが彼を好青年だと言う。
自殺未遂の朝。
3 息苦しさ
人を殺すこと、自分を殺すこと。
どっちも同じようなもの。
殺すとは、社会から逃れること。
社会の「外」に出て、ほんとうに一人になること。
つまり自由になること。
或る人の言う「ヒトを殺してみたかった」、というのは、
自由になってみたかった、ということに等しい。
ある人はヒトを殺すほどのことをしなければ息抜きができなかった。
それほど心が縛られていたのだ。
4 生きること
自殺した人間において確かな事は、
少なくともかれらが「死ぬことで救われる」、と思ったということ。
「死ぬこと以外では救われない」、と思ったということ。
つまりこの世からの絶対的な「救い」を求めてしまった、ということ。
生きるとは、日々の慰安ーほどほどの救いーで我慢すること。
5 生きる才能
この世にありとある出口はすべてみせかけ。
ほとんど無限に存在している慰安。
「救い」だけが、まるで抜き取られたように、どこにもない。
生きるための才能というのが、もしあるとするなら、
それはこの世の慰安を「みせかけ」と知りながら楽しんでみせること。
うんと軽くなること。
ーすなわち、はじめから救済を求めないこと。
6 オトモダチ
ヒトは人間関係のなかでは本当の自分を禁じられている。
人間関係は「継続させること」が前提だからだ。
関係を継続させるためには、「わたし」と「あなた」が共犯で嘘をつかなければならない。
だからたとえどんなに親しい間柄だろうと、どんな「善人」が相手だろうと、あらゆる人間関係は、やがて「しがらみ」に転化する。
7 原理
一人でいるより二人でいる方が孤独。
8 痕跡
或る一日、彼は死んだ。
もうずっと、誰にも何にも言えないかたまりが胸につかえていた。
ひとが最後に残せるのは、ただ「叫び」だけ。
彼がかつて存在していた場所には「叫び」が貼り付いている。
誰にもわけがわからない。
そこだけが染みのように、時間を重たくしている。
誰にもわけがわからない。
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