犬どもの掠奪された町
1999.2.26~27 於:アートスペースサンライズホール
作・演出 十六夜ひばく
照明・舞台美術 吉島大輔
音響 浦山あづさ
衣装メイク 篠原志奈
出演
真名子美佳
竹内秀雄
斉藤恵
田上耕
葉田野絵弥
有山智紀
小宮山秀樹
篠原志奈
常に窓が締め切られたアパートの一室では、7人が共同生活を送っていた。
彼らは「愛」の新しいあり方、つまり家族をつくらず、お互い無差別に愛し合うコミューンをつくろうとしていたのだ。
彼らの部屋から男女のあえぎ声が絶えることはなかった。実際、彼らは「愛」と「平和」に溢れていた。ただ上空を飛ぶ米軍飛行機の音に脅かされる時だけを除いて。
男は、通称「天子ちゃん」と呼ばれていた。彼と強姦によって結ばれてしまった不感症のダンサー「ミーシャ」、そして前衛劇団所属の女優「ローラ姫」。物語はこの三人の三角関係が行き詰る展開を見せる・・・かと思いきや、一向に緊張した時間をつくりださない。衝突もなくヌラヌラと皮膚感覚のように馴れ合う彼らの間には、そもそも三角関係など成り立ちようがなかった、否、「関係」そのものが成り立ちようがなかったのである。ただ馴れ合いながらあえぎ声をもらすしかないこの「現在」。「もっと軽く!」「もっと軽くなるんだ!」それが男の口癖だった。人間と人間との息詰まる関係性からどこまでも逃亡したい、男はそのように思っていた。
それというのも、男には、かつて自らの手でくびり殺した「みっちゃん」という女がいた。なぜ、殺したのか。「みっちゃん」という存在が、男の中に進入してくる「異物」つまり「他者」であったからだ。男はその記憶を逃れるように、「軽く」なりたがった。しかし、どんなに自分の中から異物を消去しようとしても、他者を消去し切れるはずもなかった。アパートの上空をゆく米軍飛行機の爆音が、どんなに窓をしめきっていても部屋に這いこんでくるのと同じように。
ある日、ミーシャの中にかつての「みっちゃん」の面影がよみがえるとき、「平和」で「愛」に溢れた生温かい空気に亀裂が生じ、締め切った窓の向こうにわが国の「現在」が浮かび上がる・・・