砂嵐のジプシー
2003.10.31~11.3 於:アートランド
作・演出 十六夜ひばく
音響・映像効果 竹内秀雄
照明 阿部真里子
衣装メイク 篠原志奈
出演
瀬戸鳴海
篠原志奈
三沢幸育
葉田野絵弥
岡本裕也
田上耕(友情出演)
それは一通の手紙から始まった。
「自殺したい人、いっしょに方舟に乗りませんか?」
かくして3人の男女がその部屋に集まった。
彼らはそれほど「死にたい」わけではなかった。ただ何となく、生きていても実感が湧かないので、死んで「みよう」と考えたのだ。悲しいときに笑って「みよう」と思うのと全く同じように。
だがそもそも死ぬ理由そのものが薄弱なので、彼らは彼らなりに、リアルに「死にたい」と思えるようになるため、少しばかり舞台設定を整えて遊んでみようと考えた。彼らは、みずからを「ハムレット」「オフィーリア」「レアティーズ」と名づけ、アパートの一室でめくるめく愛憎劇の末に心中してみたらステキではないか、と思ったのだ。
しかし「オフィーリア」を演じる女の胎内に、いつしか子供が宿るようになった時から、歯車は微妙に狂い始めた。遊びの延長線上に「死」を思い描いていた彼らのうち、女だけが本気になってしまったのだ。彼女は「ハムレット」を本気で愛してしまったのである。一方で誰を憎んだらよいのかわからなくなってしまっているハムレットにとって、自分を愛しにくる女は格好の標的となった。彼は「憎しみ」というリアルな感情を確認したいがために、オフィーリアを殺す。
「憎いから殺すのではない。憎いという感情以前に、俺のカラダがそうさせるのだ。俺のカラダが、何ものかを憎み、殺せ!といっているのだ!」
しかし、たとえオフィーリアを殺しても決定的なものが返ってくるわけもなかった。なぜならそれは始めから「お芝居の登場人物」であり、「お芝居の出来事」であったからだ。殺しても殺してもオフィーリアはその部屋に帰ってくる。もはや本名を失ってしまった彼らは、かくして何度も夢の中でのように、「ハムレット劇」を再上演し続ける以外なかった。そう、やがてハムレットの、オフィーリアの本名が戻ってくるその瞬間まで・・・